2016年08月28日

君の名は。

「目が覚めると、なぜか泣いている。」
そんな言葉で始まる予告編の新海誠氏最新作「君の名は。」が公開された。
彼の作品が好きで好きで好きでたまらなくて、気が付けば10年以上追い続けてきたことになる。
今回の作品は長年のファンなら「あっ、この場面見たことある!」と思わず口に出してしまいそうなサービス精神溢れる長編映画となっている。
こういうファンサービスに応えられるフットワークの軽いプロダクションも珍しい。

君の名は。1

夢の中で入れ替わるという「瀧」と「三葉」。一見ベターなようで意外と見たことないような世界観で、冒頭は彼らのドタバタ日常から始まる。まずここで長年のファンは違和感を覚える、と言っても良い意味でなのだが、新海監督らしいテンポの速いカット割りやモノローグがほとんど無く、随分と分業スタイルに慣れた印象を受ける。
「雲のむこう〜」や「秒速5センチメートル」では監督が一から十まで手を加えた為か、「現場が辛すぎて…」と監督自身が語っていた時期があり、今回は任せるところは任せるっと割り切って製作できたんだなと随所で感じられる場面が多い。それが良いのか悪いのかはファンを始めとした観客にゆだねられる。

ま、そんな小難しいことは置いておいて、千年ぶりの彗星が流れる夜空が美しいキービジュアル、大抵の人はこの彗星が2人を入れ替えてしまう原因になる、と観る前は予測するのだが、実際観てみるととんでもない、結構な衝撃を受ける予測不可能な展開が待っている。心だけが入れ替わって身体はそのままという前半の面白おかしいコミカルな展開に慣れていれば尚更だ(だからこそ避けては通れない「そういう」生々しい描写はもう少し抑えてほしかったが)。ここで初めて冒頭の「目が覚めると、なぜか泣いている。」という本当の意味を理解することになる。

そして新たな試みの1つであるRADWIMPSによるサントラ。主題歌や挿入歌のみならず全編の音楽を担当するというこれまた珍しい試みも今回の作品の目玉だ。自分自身、名前は知っていたものの特に好き好んで聴いていた訳ではなかったから、新海作品によってRADWIMPSを知った、と言っても過言ではない。それだけに「星を追う子ども」以上にこれまでの作品と印象が全然違うように感じられた。監督個人の好きなアーティストに音楽を担当してもらえるなんて、「感無量」とはこういう時に使う言葉なのだろう。
…なのだが、ファンだから言わせてもらうと、主題歌は彼らでも良かったが、サントラは天門さんに担当してもらいたかった。前作「言の葉の庭」から天門さんは新海作品に参加しておらず、ファンとしては正直残念なのだ。あれほど切っても切り離せない新海×天門のタッグはどこに行ったのか。「とある」ルートで事情を聞いたのだが、まあそんなことをここで語る必要もあるまい。

君の名は。2

とにかく、この作品で初めて新海作品も観る方も、長年のファンの方も非常に楽しめる作品に仕上がっている。特にラストは「秒速〜」で補間し切れていなかったモヤモヤに、パズルの最後のピースがピタッとはまる様な清々しい涙が流れる。この終わり方はファンにとっても本当に素晴らしかった。監督自身「秒速〜」も「星追い」も、世間からは自分が意図したものとは少し違う受け止められ方をされてしまったと言っておられたから、本当に繊細に計算されたラストなのだと思う。ここでは新海監督らしいテンポのいいカット割りやモノローグが健在だ。キービジュアルの階段カットの印象が、映画を観る前と観た後では180度変わることだろう。

ファンサービスや好みのアーティストの起用、これほどフットワークの軽い今だからこそ、是非とも、これはSNSでも何度も言ってることだが「ほしのこえ」を現在のスタッフ体制でリメイクしてもらいたい。これは私個人だけの話ではなくファンの多くが望んでいることなのだ。プロダクション(組織)が大きくなればなるほど、今のような自由度は効かなくなる。大人の事情とはそういうものだから、今のうちにGOサインが出ることを願ってやまない。
posted by ビター at 01:02| Comment(2) | TrackBack(0) | 新海誠